
サクラディア
2008
埼玉県さいたま市




多層風景のコモンスペース
計画地は、さいたま市に建つ、集合住宅中庭の駐車場屋上である。ここでは人工地盤の荷重条件が厳しいため薄層緑化を採用せざるを得ず、景観として単調になりがちな薄層緑化の限界を打破するために、「多層風景構造」によるランドスケープ形成を試みた。これは、ランドスケープの各要素を分節・自立して配置し、層としてオーバーラップさせることによって、中庭での
いくつもの出来事が同時進行し、それらの織りなす多層風景の重ね合わせが、居住者にランドスケープのイメージを共有できる「共有感のある中庭」を生み出すことを目指した手法である。
集合住宅でのコモンスペース(共有空間)づくりには、ますます個人化しつつある都心生活の中で、みんなが何かを共有する「ふれあいのきっかけの場」を用意することが求められる。共有する何かとは、見上げる空、朝日や夕陽、手入れできる植物、子供たちが走り回れる緑の芝生、飛んでくる野鳥、視線によるつながり、会話が出来るたまり場、座りやすいベンチ、夜道の光、映りこむ水面、季節の風など。それらは個人の知覚要素の集積であり、居住者しか感じることのできない生活の<襞・ひだ>の織り込みともいえる。そのために、この空中庭園には、ここにいることで人々が「私の庭」から「私たちの庭」に意識を転換でき、人の移動と行動により多彩なコミュニケーションの<磁場>が生まれるダイナミックな空間構成とした。
セントラルパークと名付けられた中庭空間は、自走式駐車場の屋上を利用してつくられている。駐車場はいわゆる「国土交通大臣認定品」であり、荷重条件は人を含めて300kg/m2 以内とすることが求められた。植栽基盤をはじめ、舗装の路盤材、水盤の厚さ、遊具やトレリスのフレーム、ベンチの材料や仕上げに至るまで、軽量化を図るという技術課題は、厳しい制約である反面、新しいランドスケープ・ディテールの創意工夫への良い刺激となった。
掲載:ランドスケープデザイン2008年9月No.62
設計:佐々木葉二+鳳コンサルタント環境デザイン研究所
設計主任:吉武宗平(鳳コンサルタント環境デザイン研究所)